2021.09.11 ACIDMAN “This is instrumental” LINE CUBE SHIBUYA

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この状況だけれど、興行は開催された。
歌詞のない、楽器演奏だけの「インスト曲」だけのライブ。
声を出さず、密にもならない。
全席指定の公演だった。
定期的にインスト曲を世の中に送り出してきた、
ACIDMANだからこそできる公演だった。

自分にとって、8ヶ月ぶりの生のライブだった。

検温用のサーモグラフィー、
あちこちに置いてあるアルコール消毒液、
自分でチケットをもぎる行為、
もぎったチケットを確認するブース、
馴染みの友人達と会話する輪に向けられる視線、
2枚連番でチケットを取ったのに間に入る一席、
そういうこれまでになかったものが、
当たり前という顔をしてそこにあった。

でも、
ライブ前に友達とぶらぶらして、
食事と共にコーヒーを飲みながら一息ついて、
チケット代の精算をして、
グッズあれ買うか悩んだんだよねとこぼして、
なんの曲をやるのか、
どんな演出になるのかとか話して、
ギリギリに着く友人にまだかと連絡して、
中に入って知り合いに会って、久しぶり、なんてはしゃぐやりとりとか、
これまで当たり前だと思っていたものもちゃんとそこにあった。

全部、ぜんぶ、本当に久しぶりだった。

公演の直前になって、
今日は歌声は聴けないんだな、
と、やや遅ればせながら思い出した。

照明が落ちて、古い映画のようなカウントダウンの映像が流れた。
メンバーが登場した時、大きな大きな拍手が沸き起こった。永遠に鳴り止まないんじゃないかというくらい長い時間続いていた。
それだけでもう会場に一体感があった。

密の回避のための二部公演の、夜の部だった。
ステージに立つ彼らは既に昼の部もこなしているはずなのに、久々にオーディエンスの前で演奏できる、という歓びが猛烈な勢いでたった今改めて湧き上がってきたのかと思うくらい全身全霊で鳴らしていた。
10年間彼らのライブを観てきた中で、あんなにも激しく身体を揺さぶり、動きで雄弁に感情を語る大木伸夫の姿は初めて見た。

「人が 一つ 叩いて 命」

彼らと同じくらい私が好きなバンドのドラマーが、かつて日記でこんなことを言っていた。初めて見た時、なんて素晴らしい言葉なんだろう、と、ものすごく感銘を受けた。
その文字を人の生き方へと落とし込んだ光景が今この目の前にあるんだ、と思った。

ライブ。LIVE。
言わずもがな、「生演奏」という意味以外にも、
読み方を変えれば「生きる」「暮らす」という意味がある。

ライブ会場に足を運ぶことができなかったこの8ヶ月間、多くのアーティストがライブ配信を行ってきた。ACIDMANも例外ではない。
画面越しに見ても、迫力がしっかりと伝わってくる内容だった。
配信を前提とした趣向を凝らした演出もあり、その奥深さに確かに感動した。

けれど、やっぱり、
生身の彼らが確かにいるということをこの目で確かめて、心臓を突き破ってビリビリと全身が震える音に身を投じ、
この瞬間を肌に受けてどうしようもなく、
「確かに生きている」と感じたのだ。
自分が生きている、と感じるのは当然として、
ステージに立つ彼らが「生き生きと輝いている」というのも、強く感じた。
スポットライトに照らされながら生命を鳴らす彼らの姿は、本当に綺麗だった。

唯一無二の光を目指す命こそが、この世で一番美しいのだと感じた。

目次

セットリスト

01.water room
02.ucess
03.Walking Dada
04.en
05.Dawn Chorus
06.room No.138
07.アルフヘイム
08.真っ白な夜に
09.SOL
10.風追い人(前編)
11.Λ-CDM
12.at
13.Slow View
14.彩-SAI-(前編)
15.赤色群像
16.ベガの呼応
17.EVERGREEN

いつか元のような生活が、ライブが、
帰ってくると信じて。
今日のライブはその足がかりとなるような第一歩だと彼らは言った。

正体がわからなくても確かに存在するダークマターではないけれど、歌詞がなくても言葉がなくても、こうして伝わる感動がある。
声が届くことはなくても、分かちあえる思いがある。それでも最後のMCで、
大木伸夫は「言葉のエネルギーを信じてる」と口にした。

私は言葉を信じたい。
欲張りでありたい。
「元通り」になることはなくても、
オールスタンディング公演の熱気に溢れたライブハウスでACIDMANのライブが観たい。
インストゥルメンタルという飛び武器を持って勝負できる彼らの強さは半端ではないけれど、
歌という真っ向勝負の武器も交えて戦う生き様を、いつか観ることができると願って追いかけ続けたい。

生の音楽にこれまでの想いだけではなく、
その瞬間の気持ちも載せた歌詞が載せられるその日まで。
本当の「おかえり」と「ただいま」は、その日まで大事に仕舞っておく。

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