「いつも君は一緒だった」- the HIATUS at 仙台 retro Back Page

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the HIATUS “Gobble Up the Groove Tour 2024 – The Jive Turkey Rhythmic Expedition –”
at 仙台 retro Back Page(1st set)

この記事には今後の公演のネタバレを含む可能性があります

私は一言一句口調まで思い起こさせるようにMCを詳細に記録したり、楽曲について1曲ずつ事細かに説明するライブレポートは書いていない。書く必要性がないとすら思う。もちろんそういうレポートを書いてくれる人の存在はとてもありがたいし、私自身もよく読むけれど、少なくとも私の文章を好きと言ってくれる人はまずそういうものを求めて目を通してくれているわけではないだろうなと感じているので、私の役割ではないと考えている。何より数曲前に聴いた曲のタイトルすらすぐに思い出せなくなってしまうので、情景を描くようなレポートは得意な人が書けばいいし、無理して書こうとしても楽しくない。キーボードを叩く手の進みも悪い。

そんなわけで、ブログのカテゴリ上はライブレポートとしてはいるけれど、私のそれはライブ中に考えていたことや感じたことを書いているだけなので自分語りと都合のいい拡大解釈と言われればまあそれまで。
けれどそれが誰かが抱いた近しい感情の言語化になっていたりするのであれば、多分素敵なことなのかもしれないし、それはとても嬉しいことだと思う。

開演前

7月12日の仙台ははっきりしない天気で、小雨が降ったり止んだりしていたけれど少なくとも都心部よりはまとわりつくような湿度がマシで涼しく感じた。会場に一番近い地下鉄の出口から外に出ると目の前にビアガーデンがあって夏だなと思った。入場列の整理開始時間より少しだけ早いくらいの時間に会場が入っているビルまで行くと、私と同じようにたどり着いた人が看板やポスターの写真を撮っていた。並んでいる時に前にいたお姉さんが、グアタルーペのマリアがプリントされていたシャツを着ていて好みドンピシャだったのでどこで買ったか聞こうか結構本気で悩んだ。Tシャツの文字を辿ってググってみたけど特定できなかった。

エレベーターに乗って会場のretro Back Pageに入るとほぼ目の前がステージであまりにも近くて若干慄いた。
チケットを申し込む時やライブが迫ってきたタイミングで改めて会場のことを調べて写真を見たときは普通にパーティーテーブルやソファが写っていたので、ブルーノートのようにちゃんと飲食しながらライブを見る感じなのかと思っていたけれど入ってみるとステージを囲むようにほぼ椅子だけが並べられていて、間にテーブルがぽつぽつあるような感じだった。

グランドピアノのあるステージが元々あるし、Skoop On Somebodyやチャラン・ポ・ランタンなどもここで公演を行なっているようなのでライブ自体は珍しくはないのだろうけど、今日はイレギュラー対応なんだなと肌で感じた。
日頃ライブを見るのはまあ中〜小規模のライブハウスなので必然的に会場スタッフも20代〜40代くらいの若い人が多い中、普段「ライブ会場のスタッフ」ではなく「飲食店のウェイター」として働いている方が一人ずつ丁寧にドリンクの注文を聞きに来てくれて、今日この機会がなければthe HIATUSのことは知らなかった方もいる中でこういう温かい雰囲気になるような会場設営をはじめとした準備や対応に尽力してくれているんだなということを感じてただの客にも関わらずありがたいなと心底思った。

at Live

LiveFansで不明になっている曲名を記載しています

セットリスト

01.Bonfire
02.SuperBlock
03.Deerhounds
04.Horse Riding
05.Sunset Off The Coastline
06.Clone
07.西門の昧爽
08.BASKET CASE(GREEN DAYカバー)
09.Something Ever After
10.Insomnia

11.Silence
12.Radio

ものすごく正直に言ってツアー会場が発表された直後はふざけんなよと思った。
武道館公演こそ10年前だけど人気は全く衰えてない、今も昔もチケットは取りづらい、ただでさえ例年年末年始にビルボード系列でチケット取れないジャズ箱ツアーを全国でやるっていうからホールで感想を分かち合いたい人とやっと一緒に見れると思ってたのに、各地で1日2公演とはいえこんなに小さい会場しかないってそんなに人気ないとでも思ってるのか、自分たちの価値の見積もりどんだけ軽いんだよ、と絶望した後に一周回って沸々と怒りが湧いてきたし、多分同じようなことを考えていた人は大勢いると思う。

けれど、これは自分が今回見たいタイミングでライブを観れたからこそ言えることだというのは重々承知だし、思ったことは無かったことにはならないけど、なんというか、ああ、彼らは今は本当にこの形でこのツアーをやりたかったんだな、the HIATUSでやりたかったんだな、このメンバーだからこそ誰に何を言われようが構わずにやり遂げたんだな、と思い、納得させられずにはいられない1時間半だった。

冒頭で私は「ライブレポート」に対する役割放棄のようなことを書いたし、そもそもメンバー自身がネットで色々書かれたくないことは割とはっきり言っているのもあるけど、それを抜きにしてもこの目で見たステージの上の景色は、表情は、歌声は、雰囲気は、あまりにも宝物すぎて自分の心の中の宝物箱に大事にしまっておきたいと思った。

それでも少しだけ吐き出したかったのがMCのことで、旅の話とフォレスト・ガンプの話をしていた。
孤独になりたくて旅に出るのに、旅先で素晴らしい景色や綺麗なものを見た時、あの人と一緒に観れたらいいのにと頭に誰かの顔が浮かぶこと。だいたいトシロー、そしてかみさん、と若干笑いに変えていたけど、あまりにもわかりすぎてつらかった。

そしてSomething Ever Afterの演奏前にはブルーノートでも触れていたフォレスト・ガンプの話。
フォレストが自分の人生を走り続けて戦場から生き延び、卓球の才能を開花させ、事業で成功し、愛し続けた幼馴染に再会し、そして別れが近づく中で自分が見てきた景色のことを語った時、ジェニーに「その景色を一緒に見たかった」と言われて、フォレストが返す言葉。

「いつも君は僕の心の中でずっと一緒だったよ」

“I know you’re somewhere so close to me”

個人の妄想というかもはや願いにも近いけど、多分「Unhurt」(この日は演奏していない)にも通ずる言葉だな、と。

私にも独りになりたくて遠くに行ったのに一緒に景色を観たかったと思う人がいて、いつも心の中で思い浮かべる人がいた。でも細美さんやフォレストと明確に違うのは、私のそばには二度とその人が戻ってくることはない。景色の美しさや、感じたことを伝えられることももうきっと永遠にない。

愛する人がいてもその人と離れないといけなくなった時や、自分を傷つけられたりそばにいられなくなるくらいなら永遠に蘇ることのないよう、跡形もなく滅茶苦茶に壊れてしまえばいいと思う。同じだけ苦しんで傷つけばいいと、憎んで呪って願ってしまう。それは愛とは言えないのだろうし、だとすると誰かと景色を分かち合いたいなんて自分の感情は紛い物で一生誰とも愛し合うことはないのかもしれない、愛を理解できないまま孤独なのかもしれないと思いながら、残酷なくらい美しい音に感情をむき出しにされて視界が煮えるようにぐらぐらした。

そうしてライブが終わる時、最後に言われた言葉でもう一度頭を殴られたような思いがした。

最初にライブが始まった時、どう過ごしたらいいのかわからなくなってみんな戸惑ってたけど、だんだん笑顔になっていった。その感じ、この会場を出てもその笑顔を覚えていて。会場の外にも持っていってほしい。

数曲前のセトリも覚えていないならMCも大半を速攻で忘れ去る私だけれど、2013年に開催されたHorse Riding Tourの東京公演1日目のMCは記憶に残っている。その時、この人は言っていたのだ。

なんだろう、みんなの笑顔が最近優しい

それに対して私はなぜかその時すぐ思い至った。
それはあなた自身が優しくなったからそう思えるようになったんだよ、と。
本当に何気なくSNSで呟いたらそこそこリアクションがあったので覚えている。

あくまでも私が勝手に思っていること。何も知らないくせにただのめんどくさいファンの勝手な妄想。
多分あの頃は言っている本人はわかっていなくて、知らず知らずのうちに渡して受け取っていたものを、今度はちゃんと正面から受け止めた上で、10年の時を経てこちらへと渡してもらったような気がした。

会場を出た後も、夜行バスの時間までガストでハンバーグを食べている時も、
一緒に行った友人にバス乗り場まで送ってもらっている時も、バスに揺られている時もぼんやりとまとまらないままライブの景色を反芻して、ずっと考えていた。まどろみながら明け方に目が覚めて、夢現のままどこかで聞いたことを思い出していた。他人を許せない人も、誰かに許されて生きてきたということ。憎むより許すことの方が難しいということ。欠伸もしていないのにいつの間にか涙が流れていた。

いつか、Silenceの歌詞のように、自分の間違いを認めて、許せるだろうか。優しくなれるだろうか。

“海岸線に沈む夕陽みたいな、ハッピーエンドを信じたい”

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