私の音楽人生を語る上で、避けては通れない日々の話。
プロフィールにも書いている通り、音楽好きが高じてCDショップで4年ほど働いていました。
紛れもなく「好きなこと」を仕事にして、楽しく働いていたと今でも言い切れます。
きっかけ
たまたま通える範囲の店舗のスタッフ募集の知らせが目に止まった、一言で言ってしまえばそれだけだったりします。
音楽好きとはいえ、もともと私はCD屋で働くということは考えていませんでした。
本が好きだから本屋で働きたい、メイクが好きだから美容師になりたい、と言った感じで、音楽が好きならCD屋で働きたい、またはバンドマンになりたい、と考える人は少なくはないと思います。けれどそんな簡単なことじゃない、というのも感じていました。好きなことと仕事は別。今(※当時)だってコンビニが好きだからコンビニで働いているというわけではないし、という感じでした。そのはずだったのですが。
趣味でライブに行くこと、文章を書くことが好きで日記やTwitterで感想を垂れ流していました。
コンビニの仕事では新商品のPOP作成を任されていました。
そして目に止まった求人について考えているうちに、気がついてしまったのです。
これ、組み合わせられるじゃん。
CDショップにもPOPあるじゃん。
音楽についての文章を書ける仕事、ライブレポーター以外にもあるじゃん。好きなこと仕事にできちゃうじゃん。
しかもPOPだったら読んだお客さんの反応、目の前で見れるじゃん。
CDショップで働きたい。
音楽についての文章を書きたい。
好きなバンドやCDを紹介できるPOPを作りたい。アーティストを支える仕事がしたい。
見るだけだった「夢」が、
叶えたい、叶えられる「目標」になった瞬間でした。
最初は履歴書で落ちてしまった
履歴書は直接店舗まで持って行きましたが、行くまでは相当な勇気が要りました。「音楽が好き」以外のCD屋で働きたい理由をきちんと見つけたとはいえ、趣味と直結したことを仕事にしていいのかも随分悩んだものです。
けれど、一度やってみたいと思ってしまったらもう止められませんでした。
また今動かないとずるずる一生コンビニ店員を続けてしまうのではないか、という不安が大きかったです。あまりにも後先考えずライブ遠征の予定を入れてしまう自分を変えたい気持ちもありました。仕事で音楽に塗れていたら少しは欲も抑えられるのではないかと思ったのです。
電話で事前に問い合わせた時、緊張のあまり日本語が不自由になってしまい、電話を受けてくれたスタッフさんをかなり困惑させてしまったことを思い出すたびに高所から飛び降りたくなります。
面接する場合連絡するとのことでしたが、その時は連絡は来ませんでした。
2度目のチャレンジ
見事に玉砕したわけですが、結局諦めきれずその後も求人情報ページを観に行くのが日課になりました。
そしてある日通える範囲の、最初に受けた店舗とは別の店舗の求人がついに出たので履歴書を送ったところ「ぜひ面接したい」と連絡をいただき、結果採用されて働けることになったのです。
その店舗は学生の時に、ストレイテナーの日本武道館公演のDVDを、初めてバンドの作品を買ったCDショップでした。
このDVDを買いに行った時に店頭で見つけられず、カウンターにいた店員さんに問い合わせたのですが、その時に対応してくれた店員さんが「テナー好きなんですか?」と話しかけてくれて、雑談をして同じライブに行っていたことがわかりました。
そんな経験初めてでした。ものすごく嬉しかったし、同じ音楽を好きな人と出会う喜びをここで知りました。
ストレイテナーの「CREATURES」、the HIATUSの「ANOMALY」もここで買いました。学校終わりに直行してワクワクを抑えきれずに会計を済ませ、急いで帰ってCDプレイヤーの再生ボタンを押して、CDを店頭で買う楽しさもここで教えてもらいました。
数あるCDショップの中で、自分にとって唯一無二の特別な思い出のある場所。
まさか自分がそこで働くことになるなんて、思いもしていませんでした。
ドラマみたいだなと我ながら思うけれど、全部本当の話です。
面接で聞かれたこと
「千と千尋の神隠し」で『ここで働かせてください!ここで働きたいんです!!』と湯婆婆に迫る千尋のごとく、働きたくて必死でした。落とされても別の店舗を受けるために、と残しておいた面接で聞かれたことのメモがあったので載せておきます。
・あなたにとって接客で一番大切なこととは
・今までの仕事の業務内容
・今までの仕事での失敗談/成功談
・なんでこの店舗で働きたいと思ったのか
・CDをどのくらい持っているか
・月にどのくらいCDを買うか
・採用されたらどんなことをしていきたいか
もちろん同じことを聞かれる保証は全く無いですが、これから受ける人の参考にでもなれば。
採用の電話が来た時、ありがとうございます、よろしくお願いしますと答える自分の声が震えたのを憶えています。本当に嬉しかったな。
基本業務/働き始めてから
店舗の規模や立場などによって変わってくるかと思うが、メインの業務は上から順に
・レジ
・お客様からの問い合わせ対応
・入荷処理
・品出し
・売り場のメンテナンス
・販促作成
かと思います。
慣れてきたタイミングで「新譜に合わせてこういうコーナーを作りたい」など売り場で展開する企画を考えたり上司に提案したりもしました。
新譜の入ってくる火曜日、発売日の水曜日はたいてい売り場が戦場と化していましたが、それでも充実していました。毎日があっという間でした。
当たり前ですが、給料をもらって仕事をしているので当然好きなバンドに関わる仕事ばかりやっていれば良いわけではありません。学生ならともかく、成人している大人なのだから余計にです。
最初の頃はいきなり洋楽の問い合わせを受けてその度に先輩に代わってもらったり、「ハウス」(※ディスコ発祥で四つ打ち主体/BPM110〜130くらいの打ち込みで作られるざっくり言うと踊れる音楽のジャンル)のことがわからなくてうまく応対できず怒られたりもしました。
POP作りも、詳しくないバンドのことでもいろんな資料を見たり聞いたりしながら書いたことが数えきれないほどありました。邦楽担当になったとはいえ、名前しか知らないバンドがたくさんあることを痛感しました。
好きなバンドのことを書くときですらどうしても全曲の解説を書きたいのにうまく言葉が出てこず、家に帰ってからも夜通しアルバムをエンドレスリピートして言葉を捻り出そうとした時もあったし、仕事にしているからこそ、売り上げに繋がるけれど好きな人の心にもしっかりと刺さるような言葉をずっと考えていました。在職中は自宅でのPOP作成はしていませんでしたが、趣味と直結している以上考える事は止められませんでした。
なので自分の作ったPOPの前で足を止めて読んでくれたり、試聴したり、予約しにきてくれたり、商品をレジに持ってきてくれるお客様の姿を見かけた時はこの上なく幸せな気持ちになりました。
わからなかったことがわかるようになり、スムーズに応対できるようになった時は嬉しかったです。
洋楽担当へ転向
忘れもしないある火曜日の朝、出勤したら突然「お前はもうだいたいのことはできるから今日から洋楽担当だ」と告げられました。入社して1年くらいのことでした。
正直に言って最初はもうどうしようもないくらいにがっくりきました。
どさくさに紛れてではあったが、ありがたいことに「お前はそれなりに仕事できてる」とは上司からはっきり言ってもらえたのでそれはちゃんと「信頼されて任せてもらえたんだな」と受け止めていたし、仕事なんだから好きなジャンルばかり永遠にやれるわけではないと言う事は最初から覚悟はしていたのです。(任された仕事をきちんとやるなら好きなバンドのPOPは引き続き書いても良いという許しは得ていましたが)
ただあまりにも突然で受け入れるのに時間がかかってしまいました。邦楽担当の間に何か成果を出せずに終わってしまった感もあったのが正直なところです。いや、一応は出せていたのだけれど。
しばらく経って、期待に応えたいしどうせだったら洋楽もある程度ちゃんとわかる仕事のデキるやつを目指してやろうじゃないかとやっと気持ちの切り替えをすることができてきました。生まれ持ってのかなりの負けず嫌いな性格がいい方向に働いた例です。
とにかく新しい情報を把握していないと仕事にならないので、洋楽ニュースのTwitterアカウントを片っ端からフォローしました。新譜チャートや洋楽の雑誌の表紙に書かれている内容も前よりよく意識して見るようになったし、iPhoneにマイク機能を利用した音楽検索アプリを入れて、ちょっとでも気になる音が流れていたら使いまくって調べました。
何よりも、売り場から得た知識が大きかったです。品出しやメンテナンスをしながらCDのジャケットや帯に目を通し、「このアーティストはこのジャンルに分類される」「このアーティストはこういう活躍をしていた」など学んでいきました。気になったものはジャケットの写真を撮ったりアーティストの名前をメモしたりして控えました。上司や同僚からももちろん、お客さんからもアーティスト同士の関係性やジャンルの特徴などをたくさん教わりました。
洋楽担当になる前は「デスノート」の主題歌だった「Dani California」しか知りませんでしたが、もっと早く知っていれば…と後に激しく後悔するまでになりました。それはそう。
洋楽担当になったおかげで、ずっと洋楽の知識がなさすぎて先延ばしにしていた「25歳までにフジロックに行く」という目標も楽しく達成することができました。世界の広さを改めて感じたし、得たものはめちゃくちゃ多かったです。
思い出深かったこと
やはり結果やリアクションがダイレクトに見えるので、自分がPOP作成を担当した商品が売れていくのを見るのは達成感がありました。またTwitterでの宣伝=販促活動を積極的に行った結果、お客様はもちろんアーティストに届いた時は毎回とても感慨深かったです。
あとは、Hi-STANDARDの事前告知なしの16年半ぶりのリリースと、ELLEGARDENの復活。
この2組それぞれの伝説的瞬間にCDショップ店員として関われたのは誇りに思います。
働いてよかったこと
働く前から比べれば圧倒的に音楽には詳しくなれました。当然ですが。
働かなかったらチャック・ベリーがロックンロール創始者の一人であったこともきっと知らないままだったと思います。
「音楽好き」と言いつつ実際は邦ロックしか聞いていない状況からは脱却できました。
また個性の強い人がたくさんいたおかげでかなり刺激を受けました。今でもたまに連絡を取って飲みにいっては朝まで暑苦しい話をします。楽しいです。
何よりも、挑戦して努力すれば夢は叶えられるということを学べました。
辞めた理由についてはここではあえて書きませんが(少なくとも会社や職場環境、不祥事を起こしたなどの理由ではない)、天職だったので戻れるものなら戻りたいなと言う気持ちはいつまでもあると思います。
CD屋で働きたいと思っている人へ
…なんて言葉かけれるほど大層な身分じゃないですが。
もし年齢や経歴を気にしているのなら、自分としては音楽が好きならあまり気にしなくていいと思います。いろんな年代の人がいます。学生もフリーターも既婚者も独身もみんないます。ただ募集年齢に達してない場合は法律とかの問題があるのでそれは大人しく誕生日を待ちましょう。
CD屋で働いて何をしたいのか、目的は明確にして忘れないようにしておいたほうがいいです。私のようにPOPを作りたいでも、とにかくたくさんの音楽に詳しくなりたい、好きなバンド推しまくって認知されたい、人脈を広げたい、なんなら単に学生時代の思い出作りでも、あまりに常識からブッ飛んでいなければなんでもいいと思います。
そして目的を果たすために、何をしたらいいのかを常に念頭に置いて考えて動いた方がきっと楽しいです。好きなものに囲まれていると時間が過ぎるのって本当にあっという間なので、気づいたら必須業務をやるだけで終わりになってしまいます。気になる曲あったらタイトルだけメモしとくとか、地味に大事です。やっときゃよかったなって後から超悔やむので。
あとCD屋に限った話ではないですが少なくとも業務中はやることなすこと全て店の看板背負って行動してるってことは忘れないほうがいいと思います。特にSNSで告知する時とか。
さいごに
私は働いている間毎日本当に楽しかったし、たくさんの経験をさせてもらいました。勇気出して行動してよかったです。
こういう暑苦しい店員がいたことを知ってもらえたら、そしてCD屋で働きたい人のために僅かでも参考になっていれば幸いです。
昨今の情勢からCDショップはかなりの苦境に立たされていると思います。残念ながら閉店になる店舗もこれから多く出てくるのでしょう。
音楽は世間的には、生活必需品ではなく嗜好品です。しかもただでさえサブスクが主流になりつつある世の中で、CDなんて尚更です。
けれど人生を変えられるような経験をした人間にとっては、大切なものが目に見える形になっている、失いたくない生活必需品です。CDそのものも、それを提供してくれる場所も。
大事な場所がなくならないように。
折を見て、無理のない範囲で足を運べたらと思います。